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『ぼくのピカレスク』(服部靜明著 中部財界文庫) 『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明著 光文社) |
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『ぼくのピカレスク』(服部靜明著 中部財界文庫) 著者は中部財界社社長。私のお店でもお客様としてお世話になっている。物腰がやわらかい中、自身の意志はしっかりとお持ちなイメージ。付き合いも良くフットワークも軽い。以前は劇団まで持っていらして脚本、演出を手懸けたという略歴があることはあまり知られていないだろう。雑談の時、様々な業界の噂話などをしながら聞き出したご本人の意外な一面である。 執筆された原稿からはその人の隠された内心を垣間見る可能性が高い。だから「描いた」と聞き、是非読みたいとお願いしたのはそんな下心も手伝ったからでもある。二つ返事で心よく持ってきて下さるとのお返事。にもかかわらずなかなかお持ち下さらない。ある日お店へ立ち寄って戴いた時のこと。「作品に何か理由が隠されているのでは?」とお酒の力を借り詮索したところで、やっと手にすることに成功。服部さんごめんなさい(笑)。 さてこの『ぼくのピカレスク』。主人公の高校生の健一が父親の知り合いのバーでバーテンダーとしてアルバイトしている時、思春期に秘める様々な胸の想いを繊細に描く物語り。大人へと成長していく過程。離婚した両親。その本当の理由。カウンターの内側から戸惑いながら覗く男と女。男という存在が意識する社会との繋がり方や自制。女がみせる色と優しさ。少年時代に立ち止まるそれぞれの在り方への疑問。自分の中に立ち上る表しようの無い不安。この微妙な心の揺れを丁寧になぞってゆくような感覚で綴る。子供にも大人にも属さないわずかな時期のもっとも多感な時間の逡巡を鮮やかに映しだす一冊。 ふと本書の舞台となっているバーの立地条件には何だか記憶がと思い巡らす。確か以前著者が片手間に預かられていたはずのお店の場所と同じでは…というコトは健一の立場での想いもまた一致している一部も無きにしもあらずかな。なんて錯覚も勝手に内緒で楽しめた。 『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明著 光文社) 日本推理作家協会賞受賞、「このミステリーがすごい」第一位同時受賞作品。 カレーを食べる時どれくらいの辛さが好みかという話題となった。私はかなりの辛党である。幼い頃は人並みだったのだが今となっては相当のレベル。この刺激物というのは個人差はあるとして一応にしてどんどん慣れ、その上エスカレートしてゆく事が多い。ことさら人の欲望や衝動、快楽に関することになればまるで別の意識が目覚め心臓が一回り大きくなり頭が覚醒するような感覚を起こす。 この短篇集を読んだ時はこの感覚に似た驚愕を感じた。同時に執拗に探求する絶望の残忍さに正直吐き気を覚えた程の衝撃だった。少しの間食欲さえ無くした。 さていくつかの作品のその中、本書の題名に入っている“ユニバーサル横メルカトル”とは道や場所を表す地図等に用いられている図法の一種である。 8件の殺人を犯したタクシー運転手。無差別に乗客の誰かを殺すたび車に常備している地図に遺棄した死体の場所を印す。ある日の仕事中自分の首が切断される交通事故により突然死亡する。事件は証されないままこの地図は息子の手に渡る。印に疑問を持った息子は8ヶ所全てに出かけて行き父親のしてきた事柄を知る。その後追うように父と同じ罪をさらに繰り返し重ねてゆく。しかも印は殺した相手の背中の皮を剥がしそこへ地図と共に転写してゆくという異常さ。この様子を地図達が語ってきかせるという物語りである。 その他、裏の世界で請け負った人の死体の処理のために人間を喰う担当を強いられ四六時中様々な箇所を食べ続ける体重400sの大食い男のお話「オメガの聖食」。拷問のプロとしてここには書き表わせない程の様々な残虐さで最大の絶望と恐怖を差し出すのが仕事というMCと呼ばれる男のお話「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」他5作。この八つの狂気が突き付ける挑発は強い記憶となり、数日は頭から離れないことになるだろう。 |