SERIES
これ以上は書けない。

by服部静明

ありっこない保険

違法契約を1年間放置したツケの大きすぎる代償?

 イカリ山クンは、怒っている。
 本当は錨山(猫山ではない、念のため)というのだが、錨が怒りに変身した。だから仮名は「怒山」とする。
 ま、どちらにせよ仮名であることに変わりはない。ちなみに本名が「亀井」というわけではない。念のため。

 もう一度、書く。怒山君は、怒っている。
 いやいやわたしに対してではない。
 敵は、いる。歴とした敵が、頭上にいる。
 その敵は保険会社である。

 「ね、服部さん、服部さんだって、そう思うでしょ」
 怒山クンは、そう云う。
 そう云われなくとも、わたしは納得した。彼の怒りは、もっともだ、と。
 保険会社の対応が不自然である。というか、奇妙なのだ。

 「わたしが担当者を換えてくれ、と依頼してから1年間、いいですか、担当者を換えてくれと依頼してから1年間なにもしないでのらりくらりと対応するだけなのです」。
 彼の目は、話しながらも“思い出し怒り”に震えている。
 なぜって、1年たって、まだ担当者はそのままなのである。おいおい、この保険会社、なにやってるの!。
 わたしは叫んだ。
 こんな保険会社、ありっこない。

 わたしは、そう考えた。怒山クンも、そう思ったという。そこで件の損保を仮に「ありっこ(ない)損保」と呼ぶことにする。
 そもそもどうして怒山クンは保険担当者を換えてくれ、とありっこ損保に申し入れたのか。

 その担当者をヤリスギ社員と仮に呼ぶことにして、ヤリスギはここ数年で何億円という新規契約を怒山クンの家族親戚などから集めたのだ。手口は「保険の乗り換え」「新規」あるいは同じ契約者で同じ保険をダブらせてしまうとか。ええっ、それって、いいの?違法じゃないの?
 「あ、大丈夫です。これは来年一体化します」とヤリスギはシャアシャア言ってのけたらしい。

 怒山クンは、従業員を抱える企業の社長である。役員保険、自分の生保、奥さんや子供の保険など、ヤリスギは次々と「提案」し、商品説明をすることもなく新規契約を重ねていく。
 怒山クンの会社の税理士も、この保険の山に恐怖をなし、税法上での不安を感じたが、ヤリスギは「わたしが責任を持ちます」と豪語したらしい。一体誰に対して、何の責任をとるのか不明だが…。

 そんなある日、このヤリスギと知り合うきっかけともなったある親睦会のメンバーから「おい、あのヤリスギの評判は悪いぞ。メンバーとも保険に関することで金銭トラブルを起こしている。怒山のところは大丈夫か」と指摘された。
 このころである。ヤリスギは保険契約に必要だからと怒山クンの会社の決算書を怒山クンに断ることもなく無断で税理士から取り寄せた。こんなことから、不審が一気に噴出した。怒山クンは保険業法を勉強した。するとヤリスギの勧誘には明らかな違法性がいくつも見つかったのだ。

 怒山クンは昨年7月、このありっこ損保の名古屋事務所に対して、ヤリスギの交替を要請した。
 銘記せよ。これは昨年の7月のことだ。
 まずマネージャーが確認に来社した。次ぎに東海地区の統括部というセクションから部長が来社したのは、なんと3ヶ月後の10月である。

 このころの怒山クンは、担当者の交替は要請したが、保険会社を換える気などなかった。ヤリスギのやりすぎた行為に対して不信感を募らせただけなのである。知人から紹介された別の人物に保険の窓口を換えてくれ、とありっこ損保に連絡するも、この引継は一向に進展しなかった。

 ありっこ損保から「報告書」らしきものがやっと提出されたのは年を跨いだ今年の4月のことである。すでに9ヶ月が経過しているではないか。
 そこには「事故報告として本社コンプライアンス部に報告した」とある。この日、保険会社側は、当事者のヤリスギや、怒山クンらから確認をとり、「6月末を目処に最終的な結論」を出す、と約束したのだ。

 4月15日、再び経過報告がでる。
 「今後は本社コンプライアンス部が内容を精査し…迅速に結論を出してまいります」と書かれている。そうか、やっと本格的に動き出したのか。
 
 ところが、5月28日の「進捗報告」では、奇妙なことが書かれている。担当者が体調不良にて入院中のため、連絡が遅れたことを詫びている。そんなら担当者を交替させるべきではないのか。
 苦情には迅速に対応するというのが常識ではなかったのか。それともこの損保では入院中の担当者に最後までやりきらせるとでも云うのか。

 さて6月10日では「ヤリスギが契約者と面談することなく申し込み手続きをしたことを認めた」と違法性を認めている。そうして、このときもまたコンプライアンス部の担当者が療養中だと書いている。こんなに長期に療養中なら担当者をとっとと交替させるのが筋だと思うが、この考えはおかしいのだろうか。
 それとも、ズルズルと回答を引き延ばさなければならない理由でもあるのだろうか。
 怒山クンが「怒髪天を突く」状態となったのは当然だ。
 すぐさまコンプライアンス部宛てに内容証明で文書を送る。対処報告の遅れに対する怒りである。

 さて、こうしているうちにも「約束の6月末」である。
 文書が届いた。
 執行役員の名前で「今回の苦情に関する見解とお詫び」と題されたものだ。
 そこにはこう書いてある。
 ヤリスギの行為は「不適切な募集行為であった」と認めたのだが、ありっこ損保が保険契約者怒山クンを舐めているとしか考えられないのは、この執行役員からの手紙の日付が7月17日だということだ。
 7月17日だって!!
 怒山クンが送りつけた内容証明郵便は7月2日に到着しているのだ。これでは、なめているとしか考えられない。
 しかし、あいてはイケシャーシャーと、「自分は7月3日から14日まで海外出張していたから、手紙を見たのは7月15日だ」と云うのである。
 執行役員が手紙をいつ見たのか知らない。この際、そんなことは関係ないのである。会社として6月末には結論を出すという姿勢はどうしたのだ。その約束はどうしたのだ。結論も出さないで、つまり仕事をやり残して海外出張するとは「海外逃亡」と言葉を換えてるいいくらいだ。怒山クンにとってはそれくらいの怒りが湧いて当然である。

 六月末に結論を出すという回答は遵守せよ。
 怒山クンは告訴することを決めた。当然、ありっこ損保本体を訴えるのだ。
 多分、手続き上違法行為が発覚したら監督官庁に自ら届け出るということすら、このありっこ損保はしていないに違いない。